リーガルリサーチの雰囲気を知る

承前。


いしかわまりこさん、ほんとベテラン法律司書って感じだったなぁ。
まぁ実際そうなんだろけど。

さて、いしかわさんは実際の相談事例を用いて検索のプロセスを紹介してくれました。

 鳥取県立図書館で、「近所で宗教法人が納骨堂を建設中である。反対できるか?」という相談を受けたそうです。今回はこれを使って法令の検索をしてみたいと思います。生活のお困り相談のようですが・・・

 納骨堂の建設の根拠を探しますと、「墓地、埋葬等に関する法律」というのに行き当たります。第一条を見ると、

第一条  この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする。

とあってふさわしそうですね。
この第十条は、

第十条  墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
2  前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。

というわけで、知事の許可が必要だそうなので、鳥取県条例を探しますと、「鳥取県知事の権限に属する事務の処理の特例に関する条例」というのが出てくるわけです。この別表18というところに、知事の代わりに市町村等が処理する項目として、墓地、埋葬等に関する法律に基づく事務のうち、納骨堂の経営の許可、というのが入っているのがわかります。つまり納骨堂の許可は実際は市町村に委任されている、ということですね。

 そこで、今度は例えば依頼者が鳥取市にお住まいとして鳥取市例規集を参照します。すると、「鳥取市墓地、埋葬等に関する法律施行細則」というのが出てきて、ここでようやく手続方法と様式が出てくるわけですね。これで実際の申請方法がわかりましたので、ひとまず相談者に調査結果をお返しすることができます。


 ここまでスイスイ来ましたけれど、本当はこんなにスムーズに進むはずはありません、そんなことができたらスーパー司書です。実際はここまでで数時間かかっています。すぐには出てきません。

 では、なぜこのような検索ができたのでしょう。わたしはまず地元の図書館のOPACで「納骨堂」をキーワードに検索してみたんです。でも、納骨堂って結構特殊というか、あまり普段は使わない言葉ですよね。悲しいかな、検索結果も0件でした。

 そこでですね、もうこういうときは、「法令データ提供システム」で検索しちゃいましょう。「納骨堂」で範囲は「憲法・法律」として検索すると12件出てきます。するとすぐ、「墓地、埋葬等に関する法律」がそれらしいということはわかりますよね。

 法律にはたいてい「目的」というものがはじめの方に付いています。先ほど見た第一条もそうですね。調査するときにはこれを読んでみることで、検索の方向性が間違っていないかが確認できるわけです。

 検索の範囲を「全ての法令」に拡げてみると、「墓地、埋葬等に関する法律施行規則」というのも出てきます。施行規則というものについて岩隈さん、ご説明いただけますか。


(岩隈さん:法律は国会議員さんにわかる水準で書かれていますので、より具体的な内容については、施行規則で定められることになります。これは昔の厚生省が出した省令ですね。)


 ありがとうございます。さて、さきほど「墓地、埋葬等に関する法律」第十条を見て鳥取県条例に進みました。岩隈さん、これは先ほどのお話にあった「法定受託事務」と見ていいんでしょうか?


(岩隈さん:これはちょっとむずかしいんですが、というのは、まず法律で国から県に投げていますよね。これは法定受託事務ですが、この条例の場合はさらにそれを県から市町村に投げているんですね。)


 なるほど、ちょっとむずかしかったんですね。というわけで市町村が処理するとわかって、鳥取市例規集に当たりました。Webで公開されていますが残念ながら用語検索はできないようです。でも、体系目次からたどり着くことは充分できますよ。鳥取市の場合は「第8編 市民生活」の中に「鳥取市墓地、埋葬等に関する法律施行細則」が入っていますね。

 「墓地、埋葬等に関する法律」という名前がわかると、OPACで探してもヒットするものが出てきます。第一法規に『墓地埋葬等に関する法律 逐条解説』なんていうのもありますし、参考になりそうですね。こういったものも相談者に一緒に提供することができます。


 さて、今回はこのように回答することになったわけですが、これで全てでしょうか。相談者は悩みを解決できたのでしょうか。このさきを解決するにはさらに、役所の各機関との連携が必要になってくるかもしれませんね。


質疑でも指摘されていたけど、配布資料にないスライドを説明で使うなど、結構特徴のある発表方法だった。配布資料はぐるっと2周して内容がよりつかみやすいように工夫されている。資料にないスライドは、まぁ話に集中させる効果はあるかもだけど、メモするのはちょっと大変だったね。笑


もうひとつの質問、「例規集が出るまで時間がかかるのはなぜか」。岩隈さんが回答。まず「義務ではない」こと。必要なのは公報なので、例規集を出すか出さないかは自治体に任されている。それから、出版社との契約や、DBベンダーとの契約で、更新時期が決められている場合がある。こういうときはもう年に何回のその時期を待たなければいけなくなるということです。


最後に岩隈さんから、この事例の講評のようなものがあった。相談者が実際どうなったかはわからないけど、少なくとも、法律で委任されているからって市町村に再び委任されていることを知らずに間違って県のほうに陳情に行くことはなくなったよね、と。その意味では相談回答の効果はあったはず、ということでした。

で、いしかわさんから「これで少なくとも納骨堂の検索はみなさん完璧ですね」という言葉によりフォーラムは締められました。笑



実際いま仕事で条例を求められることってそーんなにないんだけど、例規とかそういう言葉をはっきり区別して理解できたのはよかったなと思う。あと洋々亭は知らなかった。


あと、鹿児島大学のポータルは追加作業が止まっているって話。ああいうのも図書館が手伝えたらいいのになって思う。ていうか、個人的にでも何かできそうだしな・・・


とりあえず今回は、いままで本で読んだだけでだった正統な「リーガルリサーチ」をちらっとでも実際に垣間見た、という意味で有意義な体験でした。あんなふうか、っていう。やっぱり雰囲気を知ることは大事ですね。今後に活かせそう。


ちなみに来年は「判例」を取り上げるご予定だそうです。うーん、うーん、行きたいゅ。