厳密な電子書籍

村上 憲郎. “Googleの切り開く情報の世界 プロフェッショナルの仕事とは”. 情報管理. Vol. 53, No. 12, (2011), 651-664 .
を読む。
Googleブックスの話が出ていた。

よく「Google電子書籍を推進しているのではないか」という間違ったとらえ方をされる方がいますが,そうではありません。あくまでも紙の書籍にたどり着いていただくという仕組みです。
(654ページ)

ふーん、そういうつもりだというのは知らなかったな。
どこまで本音かというのはあるにせよ。


まぁ、そのあとすぐに、

 来年(2011年)から,Googleブックスで検索した書籍を100%読めるようにするGoogleエディションというサービスを開始します。これはどういうサービスかというと,要するに夜中に書籍を探していて,紙の本を買うのに明日まで待っていられない,今すぐ読みたいというご要望に対して,出版社にお金を払えば100%の立ち読みを許可するというものです。出版社に支払われるお金をGoogleが仲介するという仕組みです。これは,後ほどご説明するGoogleクラウドというコンピューティングスタイルの上でこそできることであり,クラウドの力を最大限に利用したサービスと言えます。
 GoogleエディションがAmazonKindleあるいはAppleiBooks等と違うところは,ブラウザがあればどのような書籍でも読めることです。これは厳密に言えば電子書籍とは異なりますが,電子書籍と言えなくもない。
(654ページ)

と言っていて、んー? と思うわけだけど。
村上さんが想定している「厳密な電子書籍」と、市井の人がなんとなく思っている「電子書籍」の間に結構ずれがある気が…
すでに話が噛み合っていなそうでこわい。


「厳密な電子書籍」って、たぶん、装幀とか段組とかのアートワークがビシッとしてて、著者のみならず出版社の意図までしっかり反映された「作品」であり、なんとかリーダーとかがないと読めないもの*1、みたいなイメージなんだけど、それでいいのだろうか。
図書館で提供されるような電子書籍もきっとこういう感じの厳密なタイプで、
瀧口範子「図書館で借りる電子書籍、ややこしいみたい(シリコンバレー通信)」
PC Online
にはサンフランシスコ公立図書館の例として、

説明によると、電子書籍のフォーマットは、EPUB、PDF、モビポケット(スマートフォン用)などがあるらしく、それぞれの書籍によって異なるようだ。そして、DRM(デジタル著作権管理)の制限のかかるコンテンツは、EPUBであってもPDFであっても、KindleiPadなどでは読めないようだ。図書館で本を借りる人には、書店チェーンのバーンズ&ノーブルが開発、販売する電子書籍リーダーの「ヌック(nook)」の利用者が多いのだが、なるほど、というわけだ。使えるモバイル端末は、ヌックとソニー・リーダー、コーボ(Kobo、書店チェーンのボーダーズで買える)としか出ていない。その電子書籍がモビポケット形式も出していたら、BlackBerryWindows Mobileなどにも対応するということだろう。なかなかややこしい。

なんていう話も出ている。
そうすると、厳密なのとシンプルなのでどっちが生き残るんだろうって思うわけで、結局生き残ったほうが「電子書籍」と呼ばれるんじゃないのとか。
そんなわけで、変な“電子書籍逃れ”は気に入らねえなと若干思ったってだけのこと。


それはともかく、村上さんの講演録はなかなかおもしろかったのでメモしておく。

社内文書をデータベースにきちんと整理するより,情報や文書を全文検索したほうが早いのではないか。
(655ページ)

これねえよく聞くけどどうなんだろうね。
まずちゃんと検索できんのかっていう問題ではある。Excelとかで検索かけるときとかほんと思う。

Googleの使っている社内システムをお使いになりたいという企業の方々がいらっしゃいました。
 われわれは無料でのご提供を申し出たのですが,企業対企業の関係になりますと責任の分界点を明確にするという点から対価を払っておきたいというお考えがあるようです。ならば,切りのいいところで社員1人頭年間50ドルと決めました。当時のレートで約6,000円です。IT部門の方には,一桁安過ぎるんじゃないですかというご印象だろうと思います。
(655ページ)

コストパフォーマンスで考えたら圧倒的ですよね…
そりゃみんなGoogleになるわ。

化石燃料依存型のエネルギー社会は,もちろん地球温暖化という意味においても問題ですが,安定的な,できれば低廉な電力を将来にわたって獲得しない限り,私どものビジネスモデルの持続可能性も危ぶまれることとなります。そこで私たち自身が再生可能エネルギーへの取り組みを始めております。
(657ページ)

こうやってはっきり言ってもらえるとむしろ好感が持てますよ。
コスト削減を隠してエコエコ言ってくる奴らにはうんざりしている。

*1:余談だけど理想書店ボイジャーストアになってからはじめて昨日本を買ってみたら、「PCで読むときはこれら3つのアプリケーションを全てインストールしてください」って書いてあってさすがに笑った。